ユーラ ごみ捨て場の少女

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ヨーロッパ最大級のゴミ埋め立て地・スヴァルカ。そこに暮らす貧しい人々は、事故や寒さで命を失っていく。友だちと遊び、笑うユーラは、ごく普通の少女。過酷な状況下で成長し、16歳で妊娠・出産を経験。凍死に怯え、ウォッカを廻し飲みしながらいくつもの冬を生き延びたユーラに、埋め立て地を脱出するチャンスが訪れるのだが・・・。豊かになりつつあるモスクワの外でつづられる、もうひとつの人生に密着する。

以前沖縄に一ヶ月半程旅したことがある。あれは19歳の頃だっただろうか。ヒッチハイクしながら本島をウロウロしていた。フェリー会社の社長と愛人の車に乗せてもらった時に、多分愛人にいいところを見せたかったのだろう、私をタダでフェリーに乗せてくれた。そのフェリーが石垣島行きだった。石垣島のビーチで誰かにもらった米軍の携帯食を冷えたまま食べた。チキンのクリーム煮。味が薄くて美味しくなかったのを覚えている。そのビーチで一人で旅していた中年の女の人と出会った。その人は近くのホテルに泊まっていて、ツインの部屋でベッドが一つ空いているから使っていいよと言ってくれた。その夜、コインランドリーに洗濯物を突っ込んで洗濯が終わるまでの間ビールを飲みながらテレビでやっていたドキュメンタリーを見た。アフリカの少年兵の物語だった。どこの国の、いつの戦争だったか忘れてしまった。けれどそんな風に大切な記憶と曖昧なドキュメンタリー番組が結びつくことが私には多い。

ユーラはごみの中で生活している。景色の悲しみ程にユーラの表情に悲壮感はないように感じる。10歳で煙草を吸ったり、酒を飲んだり、和たちの知っている10歳の生活とは遠いけれど、そこには子供の無邪気さも確かに存在しているように感じる。

ある日ユーラの母親の母親がユーラの小屋にやってくる。レイプされたと煙草を吸いながら涙を流す。着込めるだけ洋服を着込んで、顔は煤汚れている母親が自分の子供の前で泣いている。同じ境遇の中で助け合って生きているのか、と甘い考えで見ていた私は驚いた。怯えながら生きるしかないのだ。壁も鍵もない場所では守りようもないのに。

ユーラは男の子と出会い妊娠する。ごみの中で子育てをする友達もいるが、ユーラは生まれたばかりの赤ちゃんをベッドに残し、僅かな荷物をバッグにしまい部屋を出る。赤ちゃんが泣き出す、廊下から部屋を覗くが躊躇いながらその場を後にする。きっと養子に出すのだろう。その後ユーラはアパートを手に入れ、母親を呼び寄せ夫と暮らす。二人目の子供を妊娠し、出産する。

アパートの部屋でお腹の大きくなったユーラの姿を見た時、私はどうしょうもなく悲しくなった。誰かの着ていた洋服、誰かの履いていた靴、誰かの眠っていたベッド、誰かの子供が抱きしめていた人形。人々が捨てたものの中で生活していた過去のユーラは、唯一自分のものであった子供を捨てざるをえなかった。それは誰かの元へ希望の光として届けられるのだろう。その子はごみの中ではなく、新しいベビーベッドの上で綺麗に洗濯された肌着を着て、寒かったら暖房で暖められた部屋で眠ることができる。けれど、私はそのことが悲しかった。

現代ロシアの貧困研究

価格¥8,140

順位1,643,167位

友加, 武田

発行東京大学出版会

発売日2011年2月25日

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のんちゃん

Posted By のんちゃん

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